2023年6月14日、フランスの生成AIスタートアップMistral AIが投資家から1億500万ユーロの資金を調達。3人の設立者はそれぞれ、グーグルのAI企業DeepmindやMeta(旧Facebook)で大規模言語モデルの開発を主導していた。Mistral AIは欧州企業向けにAI言語モデルを構築する。ドイツの生成スタートアップAleph AlphaやNyonicと同様に、(欧州企業にとって重要なポイントである)データ保護・データセキュリティ、透明性に重点を置き、それを‘うり’にする意向。
2023年6月1日、SAPのAI部門のトップであるDr. Feiyu Xuが他の著名なAI専門家と共同で、生成AIのスタートアップNyonicを立ち上げるために同社を去ることが明らかになった。Aleph Alphaと同様に産業分野の特殊な用途に適した、複数の欧州言語をサポートする大規模言語モデル(LLM)を開発するという。
米国のOpenAIに技術的には対抗可能
ここ最近、ChatGPTを始めとする生成AI(ジェネレーティブAI)が世界的に注目を浴びている。米国と中国が圧倒しているように見えるが、生成AIの研究開発でドイツは意外と世界のトップレベルにある。
ドイツ人工知能協会によると、有望な生成AIモデルの開発に取り組んでいるスタートアップ企業が現在、ドイツに12社ある。その中でも最も有望なのがAleph Alpha社で、(米OpenAIのChatGPTと技術的に競い合える)欧州発の大規模言語モデル「Luminous」を開発している。
ドイツの起業支援プログラム「AI Founders」によると、生成AIに焦点をあてるスタートアップ企業がドイツで急増中。本年の同プログラムへの応募企業200社の内、3分の1が生成AIに携わっているという。昨年は150社の応募企業の中で、生成AIに特化したスタートアップは1社のみだった。
ドイツの生成AIスタートアップ(TOP 10)
企業名 | 本社所在地 | 設立年 | 資金調達額 | 分野 |
---|---|---|---|---|
Cognigy | デュッセルドルフ | 2016年 | $69.0M | 対話型AIプラットフォーム(顧客・従業員サポート) |
Jina AI | ベルリン | 2020年 | §37.5M | ニューラル検索プラットフォーム |
Aleph Alpha | ハイデルベルク | 2019年 | $30.8M | 汎用AI(大規模言語モデル) |
Ultimate.ai | ベルリン | 2017年 | $27.4M | チャットボット(顧客サポート) |
deepset | ベルリン | 2018年 | §15.6M | 自然言語処理システム(セマンティック検索) |
Hyperganic | ミュンヘン | 2014年 | §7.3M | AIベースの製品・部品の設計 |
Twain | ベルリン | 2021年 | §4.5M | AIベースのコミュニケーションアシスタント(効果的なメール) |
Cogram | ベルリン | 2021年 | $4.5M | テキスト生成(オンライン会議でのメモなど) |
Conversion Maker | オッフェンブルク | 2020年 | $4.0M | テキスト生成(最適化された製品説明、メール、SNSの投稿など) |
Fyrfeed | ベルリン | 2020年 | $2.6M | テキスト生成(SNS・ブログ記事などコンテントマーケティング) |
課題は「German Angst」の克服?
英米では、典型的なドイツ人の特徴・国民的な性質を表す言葉として「German Angst(ドイツ人の不安)」がかねてから使われている。ドイツ人の未来への恐怖と安全への極端な欲求と結びついた、臆病さ(大胆さの欠如)と躊躇を意味する。
ドイツ人はリスクや変化に対して過度に慎重で、彼らの行動は懸念と不安によって特徴づけられている。ポジティブな変化を期待するよりも、ネガティブな変化を恐れている。この国民的な性質が、生成AIの普及を大きく妨げる可能性がある。
ドイツ人の用心深い性質のおかげで、フル自動運転や強いAI(汎用人工知能)がもたらすネガティブな影響・被害を避けられる可能性もある。